赤本での卵油の記述
通称「赤本」と呼ばれる「家庭に於ける實際的看護の秘訣(實地方面の養生手当と民間療法、女の衛生と子供の育て方)」は大正14年に発刊され、最近まで版を重ね1,000万部以上の超ベストセラーとなった家庭医学書です。著者は旧帝国海軍の衛生兵・築田多吉で、戦前は「一家に一冊あった」と言われています。
(家庭常備薬 第十八章 620頁)
【その他の常備薬】
卵の油
◎この油の製法は黄味が焼ける迄炒ると油が出ます。混ぜ物のある製品は効きません。この薬は内服すれば心臓の妙薬で、如何なる心臓病でも著明の効果があり、少しも危険なものでないから、心臓の悪い人は是非造って飲んで御覧なさい。動悸や息切れ、結代脈などは二、三日できれいに治ります。入院中に危篤になった心臓病の病人が、この油を飲んで急に好転し助かった人が澤山あるので、これは将来益々化學的に発展するものと思ひます。卵の油が効くから卵を喰べても効くだろうと考へて問ひ合せる人がありますが、卵と油は全然成分が違ふから、卵を喰べても駄目です。この卵の油は滋養強壮にもなり、外用すれば痔の妙薬で、耳だれや湿疹、禿頭病や若白髪に擦込むと著明の効果があります。尚この卵の油は、著者が発明して赤本発行の当時、特許権を取る予定であったのだが、其の方法を一般に公開して全國に普及することにしたのであります。又此の油は器械で絞って取る法もあるのだが、それでは家庭で造れないから、炒って造る方法を公開したのであります。
(医54〜56)卵油の臨床実験
医学博士 窪田 孝
内服
一、心臓機能障碍及び心臓衰弱に卵油三cc(一日量)を服用せしむるに脈拍頻数、心悸亢進、結代、不整脈等の諸症状も漸次快復し他の強心剤の効果に果々しからざる場合に著効を奏することあり。
一、栄養失調其の他一般衰弱患者に長時日服用せしめ著明の効果を認む。
外用
一、痔瘻には痔孔内に注射器にて卵油を注入し痔核には脱脂綿にひたし貼用せしめ疼痛、出血緩解し治療することあり。
一、化膿性中耳炎に卵油を點耳、頑固なる湿疹に擦入し著効を認む。
一、若白毛に對し之れを長時日毛根部に擦入すれば黒変することを屡々実験せり。
医学博士 加藤英一
数年来筆者は二、三疾患に卵の油の内服を行い効果あることを経験した。
一、心臓疾患(心臓弁膜障碍症、心臓衰弱、不整脈、心悸亢進)十歳内外の小児に一日一ccを毎日与ふる時は二、三日内に脈拍強く緊張し不整脈も調整される、強心剤の効果少き時にも本剤の使用に依り良好なる経過を取った症例を経験した。
本剤は副作用無く多量に過るも何等障碍を認めない。一、二例を示せば
(A)小○ス○子 当時満五歳 幼稚園児(先天性心臓弁膜障害)
始めは口唇、四肢にチアノーゼあり、心音雑音著明、心臓肥大著明、時々胸内苦悶を訴える遊戯不能、歩行も五分間位でチアノーゼ増強し息切れ胸内苦悶を訴え歩行不能となる、卵の油内服により現在小學一年通學中であるが体操遠足にも参加する程度となった。
(B)田○フ○子 当時小學六年(先天性心臓弁膜障害)
學校迄徒歩にて十分間であるが倦怠感、チアノーゼを来し休學し勝ちであった、現在中學二年であるが最近は運動會、登山等にも参加し得る程度となる、心臓雑音も著しく軽減した。
二、栄養失調、小児結核、慢性消化不良等に卵の油の内服を応用した。本剤中には多量の蛋白質、脂肪を含有し且つ消化容易な良質なものが含まれて居る。従って栄養失調症慢性疾患に使用する時は一般に市販される栄養剤に比し更に効果ある成績を認めることが出来る。
三、化膿性中耳炎、創傷、湿疹等に點耳局所塗布を行ふ時は甚だ治療を促進する。痔疾に局所塗布を行い痔核の出血、裂瘡を治癒促進に著効が認められる。
医学士 馬場和光
内服
一、この卵の油を内服して著明の効果を奏する病気は諸種の心臓病で一回一cc乃至二ccを一日三回服用するのだが(小児は年齢に依り之れを減ず)多量服用しても障碍なく胃腸障碍其の他の副作用更に無し。
一、脚気症状、バセドウ氏病、神経衰弱、肺炎、其の他諸種の伝染病等より来る心臓衰弱、呼吸困難を伴ふ心悸亢進、脈拍細少、結代等にはこの卵油は速効を奏し、狭心症、低血圧、弁膜症等に用いて著効あり、ヂギタリス剤其の他強心剤の効果無き場合顕著に奏効して屡々凱歌を挙げたる例少からず、一般臨床家に推奨する所以である。
外用
一、痔疾には内痔核、肛門出血等には直腸内にこの油を注入し又は脱脂綿に浸して貼用する時は出血疼痛は直に止まり漸次治癒に導く、瘻孔内に注入する時は化膿症状停止し炎症去り長く之れを継続する時は痔瘻の治癒する場合少からず。
一、化膿性中耳炎、湿疹等に外用する時は著明の効果を奏す。
一、五十歳以上の若白髪等に此の油を其の毛根部一面に毎日擦り込む時は其の白髪は黒変する場合多く之れは毛根の栄養を快復する為めと思ふ、又無毛症等にも屡々その効果を認む。
(第五章 心臓病 275頁)
【心臓に卓効のある卵油】
卵の油は其病人に適量(一回〇、五乃至一、五瓦)をカプセルに入れ毎日三回食後に服用して最も有効です。何かの病気で心臓が弱り、ひどく『どうき』がして足がはれたり道を歩くにも困る様な病人には即座に利き一、二日の内にずんずん元気が回復して来るのは奇妙です。此卵の油は慢性の心臓病や心悸亢進にのみ有効で死期が近づいて心臓が衰弱して注射する様になっては、此卵の油を飲んでも利かないものと思ふて居りましたが、之は大きな考へ違ひであったので、重症になっても続けて服用して居ると心臓の衰弱を防ぎ、重症に近づいてもとても有効な事が分ったのであります。殊に此の油は薬ではなくて卵の精分であるから、更に副作用が無く滋養にもなり素人の強心剤としては得難い家庭薬であります。心臓病には素人が薬を飲む事が出来ないのでありますが、卵の油は飲んでも少しも差し支えないのであります。此卵の油は自分で作って一回二十滴づつ一日三回食後に飲んでよろし。
(第五章 心臓病 276頁)
【心臓衰弱の治った実験例】
平素余程元気な老人(七十二歳)が何の病気か、心臓が非常に弱って、脈が四つか五つで結代する、而も此人は中々の頑固で「俺は死ぬるのだ薬は飲まぬ」と云ひ、唯水を少しづつ飲むばかりで食物、薬品一切やらない、そこで家人が無理やりに勧めて、漸く卵油だけ飲む事を承諾させ、二日程飲ませたら脈が二十か三十位続く様になり段々元気づいて、食事をする様になり爾来十日ばかり続いて服用したら、全治したので「俺は薬を飲まんので能く分る、全く貴公の厚意で卵油で助かったワイ、之では当分死なれん」と云うて又元の元気、働き出しました、又チフスの下血で心臓が衰弱し危篤に陥った人の助かった實例は読者の声に掲載した通りであります。
(医26)心臓病に對する警告
心臓病には色々の種類があって素人には判らないから医者の指示を受けずに薬を飲むことは禁物であります。だが六二〇頁に書いてある卵の油を造って茶匙一杯づつ一日二回飲むととても不思議な効果を現はし危篤になった時でもビタカン以上の効果を見た例があります。或る病院で入院中の医者が手を離した心臓病が此の卵の油を飲んでキレイに治った為めに病院では不思議がり家人から病院に内々で卵の油を飲ませたことを聞いて二六七頁の卵の油の製法や二七〇頁の心臓病の記事を書取ったと報告して来た人があります。
心臓病には仲々重大な病気もあるが脈の結代や不整脈、心悸亢進等で、一時性に脈が速くなったり、止まったり飛んだりして来るような時にはこの卵の油で治った人が多いのだから試みてご覧なさい、一切無害です、私は長い間不整脈があって時々結代して気持ちが悪かったのが、之れは心配のない症状ではあるけれども卵の油を飲んだら、どの位の効果を奏するかと云ふ成績を確めて此の本に書きたいと考えて前記の卵の油を三日間飲んだら一切の症状が無くなって完全に治ってしまった。
尚卵の油のことに就ては下記警題五四頁を見て下さい。
【引用】築田多吉著「家庭における実際的看護の秘訣(通称「赤本」)増補改訂版
(1996年)」三樹園社(620頁、医54〜56、275頁、276頁、医26)